2018/10

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 しかし、驚いた。ミシン業界のことである。ここ数ヶ月のうちに、一度でもいい、ミシンに関心を払った方は、あるだろうか? そう、かつて懐かしい日々に、お母さんやお祖母ちゃんが、布などをジャーッと縫っていた、あのソーイング・マシーン。和名で「縫製機」ともいうらしいが、わたしの時代の小中学校では「技術家庭科」というのがあって(確か、そんな名称だった)、縫い物などを習ったのは女子の家庭科、男子は技術科で木工か何かを習わされた。自慢できることではないが、ミシンを扱ったことなど、学校でも家庭でも、一度もなかったのである。



 そんなわたしが、生まれて初めて、懸命にミシンと向き合い、ミシンについて考える羽目に陥ったのは、田舎の老親が、いつの間にか30万円もするミシンを、訪問販売で購入していたためだ。ふだん離れて生活しているので、老いた両親がどんな買い物をしようが、知る立場にないが、2年前に、既にそれを買ったのだという。最近、わたしが家の周囲の草むしりの手伝いに帰省した際、3ヶ月ほど前に、その高級ミシンが不調で修理を依頼したところ、ほとんど使っていなかったものを下取りにして、さらに高い海外メーカーのミシンを購入…という話を聞いて、いくらか疑念が射した。
「いくらか」というのは、確かにわたしの経済生活からすれば、憤激したくなるような値段だが、もともとミシンの価格帯がどの程度のものか知らず、最新式の「コンピューターミシン」なら、それぐらいするものなのかと、ただ単純に呆れたのだ。前のマシンを下取り&新たなマシン購入、といっても、話を聞いてみると、老眼でも糸を通しやすいとか、操作性を理由に海外ブランド品を強力に薦められ、その時点では納得して買っているのである。
 最初の1台目「シンガーミシン」(皆さんも、ご存知ですよね?)はともかく、未知の海外メーカー「エルナ」について、一応調べてみようと、わたしは携帯したパソコンで検索してみた。すると思いがけないことに、ミシンの訪問販売に関する不穏なデータが、ぞろぞろ出てくるではないか。どうやら、うちの老親は「おとり商法」と称される、詐欺まがいに引っかかったらしいことが、次第に諒解された。そして、それが決定的になったのは、掲示板などで問題になっている会社「○○ミシンセンター」が、まさに老親が買った相手であり、また注意すべき「通信販売・訪問販売用オリジナル・ミシン」の一覧表の中に、うちで購入した2機種が、代表的なそれとして堂々リストアップされているのを発見した時だった。



 時系列を追って、ミシンの「おとり商法」の如何なるものであるか、明らかにしてみたい。地方のある村に居住しているわたしの両親だが、2年前、母親が、以前から目に留めていたミシンの新聞折込みのチラシに記されている、フリーダイヤルに電話をかけた。チラシには、8千円クラスのミシンが数機種紹介されている。以前からミシンを買うことを、漠然と考えていたが、住んでいる郡部にはミシンを売っている店など存在せず、チラシ広告の8千円はずいぶん安いが、そんな値段なら気軽に買えるだろう。
 電話した「○○ミシンセンター」(これは全国組織)の「ミシンショップ××」(郡部からは、ずいぶん離れた県央部の××市に支社がある)から、数日後、販売員の男女が二人でやって来た。男は営業担当、女は縫い方を説明する担当だという。二人は最初、チラシに掲載された8千円前後のシンガーミシンを取り出すが、いかにそれらが使いにくく、故障しやすいオモチャみたいなものであるか、母親に力説する。この時点で妙だと思わなければならないが、田舎住まいの老人はそれほど疑い深くない。変だと言えば、8千円のミシンを1台売るために、遠く離れた都市から、二人の大人が車を飛ばしてやってくること自体、変なのだ。
 次に彼らは、定価31万8千円のシンガーの「コンピューターミシン」を取り出し、これがいかに老人でも使いやすい、最高級の機種であるか説明し、熱心に薦める。8千円の機種との差額、実に31万円! 実に大胆な飛躍だ。わたしの母親は、けっして世慣れないタイプではなく、むしろ逆のタイプ(どういうタイプだ?)なのだが、それがコロリと受け入れてしまったのだから、よほどセールス・トークが、田舎風に洗練されているのだろう。定価から値引きして、26万5650円を、クレジットで購入する契約を結んでいた。そこには、戦前から人口に膾炙した「シンガーミシン」に対する信頼があったことは間違いない。



 時代の先端を行く「コンピューターミシン」を手に入れた、わたしの母親だが、実際はほとんど使わず、放置されてあったらしい。この辺が、老人相手のセールスのチョロイところだが、今年に入ってミシンを使おうとしたところ、操作の仕方を忘れてしまったうえ、説明書を見ても、うまく作動しないようなのだ。そこで、再び「ミシンショップ××」に電話して、故障ではないだろうかと言うと、今度は営業が一人でやって来た。原則は二人なのだが、この日、都合がつかなかったと言う。
 この時は、途中から父親も説明を聞いたのだが、作動しないのは「長期にわたって使わなかったので、グリースが固まったせい」。しかし「お年寄りが、より使いやすい『エルナ』のコンピューターミシンがあって、これはシンガーともタイアップしているスイスの会社の製品だから、安心です」と、さも親切げに薦める。老眼の母親が、ミシンの針に糸を通すのが難しいなど、うまく使いこなせないことを見て取ってのことだが、値段を聞くと、定価33万3900円。さらに高いが、シンガーを下取りして、プラス10数万円で買えると言う。
 それを鵜呑みにするほど、わたしの母親は人が良くないが、結局プラス6万3千円でエルナを購入したのだから、ここでもセールス・トークは見事に功を奏した。この時は、後日、縫製担当ともう一度来訪し、使い方を詳しく説明すると言って帰って行った。
 数日後、父親が、シンガーの保証期間が3年間であったことに気付き、ミシンショップに「買い替えではなく、無料修理すべきでなかったか?」と電話するが、「ご主人も一緒に説明を受け、納得して買われたはず」と言いくるめられる。詐欺的商法というと、すぐ思い浮かべるような脅し文句ではなく、あくまで丁寧に説明し、理解を求めるのが、この会社の方針らしい。
 この段階で、わたしは初めて「コンピューターミシン」なるものが実家に存在することを知ったのだが、パソコンで検索すると、「○○ミシンセンター」は、かなり怪しい会社のようだ。掲示板の断片には(まとまった形では、アップされていない)相当の苦情が殺到している。いずれも二人組みで来訪し、1万円以下のミシンで釣って、言葉巧みに30万円クラスのミシンを売りつける。しかし、老親の場合、契約書にも明記されているクーリング・オフの期間は、とっくに過ぎているうえ、最初のシンガーミシンなど、2年も前の話なのだ。
 当初、わたしは、説明書を読んでミシンを操作できるようなら、もう縫い方の説明になど来てもらわないで、ミシンショップとは一切縁を切ったほうが良いのではないかと考えた。そこで、説明書を片手に、エルナミシンと取り組むことになったのだが、自動糸通しのメカニズムを理解するだけで、2〜3時間もかかる始末。ミシンを扱ったことのないわたしには、とうてい無理な相談であった。
 詐欺まがいの商法に引っかかったらしいと気付いた母親は、何が何でも縫製担当を呼んで説明させると、こちらはすっかり意地になっている。そこで、「ミシンショップ××」に電話して、東京で暮らしているわたしの妹が同席し、説明を受けることになった。



 この日は、営業と縫い方の男女二人組みでやって来たが、おかしなことが次々に起こった。どうやら、エルナが欠陥商品だったらしいのだ。以下は妹の説明である。
1 上糸と下糸の連動がうまくいかず、「下糸がつっている」。縫い方の担当が、懸命に調整するが、縫い目に変化なし。あげく「コンピュータを使った最近のミシンの縫い目は、これが普通です」と主張する。妹が、帰京後、地元の消費者センターを訪ね、そこから「シンガーハッピージャパン」の「お客様相談室」に電話して、「下糸がつる」ことを尋ねると、「それが普通」であるわけがないと明確に否定した。
2 ボタンホールを縫っていたら、同じ箇所で何度も上糸が切れ、しまいには針まで曲がってしまう。しばらく直そうと努めていたが、諦めて「持ち帰ります」と言う。「交換には1ヶ月かかる」という説明だった。
 一方、わたしはネットで、ミシンの訪問販売とミシン業界について調べていたが、目を疑うような事実が、次々に浮かんできた。まず、両親もわたしも信じて疑わなかった「シンガーミシン」が、メーカーとしては現在、存在していないのだ。かつてアメリカのシンガーと契約していた会社は、ミシン部門を解散してしまい、今ではブランド契約をした会社(妹が電話をした「シンガーハッピージャパン」)が日本における「シンガーミシン」を製造し、販売している。名だたる「シンガー」が、メーカーとしては存在せず「ブランド」としてのみ存在していた。これには、ただもう唖然。
 だから、エルナを薦める際に、営業が説明した「シンガーと契約している会社だから安心」というのは、明白な虚偽である。後で調べて、スイスのエルナ社とタイアップしたのはジューキ(JUKI)であることが分かった。田舎の人間や、かつてのシンガー全盛時代を知る初老以上の人間の、頭に焼きついたブランド・イメージを利用しているのだが、ミシン業界の盛衰に詳しい人間なんて、そう、ざらにいないだろう。
 しかし、わたしがなんとも解せなかったのは、メーカーが存在しないシンガーが「おとり商法」に製品を提供し、目玉商品になっていることは有り得たとしても、「通販・訪問販売専用オリジナル・ミシン」のリストに、前記「JUKI」や「蛇の目ミシン」「ブラザーミシン」といった、そうそうたるメーカー品まで、ラインナップされているのは何故か? それらのメーカーのサイトを調べたが、コンピューターミシンでも、30万円なんてしない。最高級の機種で、せいぜい15万から18万円ぐらいなのだ。
 そんな時に出会ったのが「ミシンの迷信」というサイトだった。結婚相手が新聞の折込みチラシを見て電話し、もう少しで32万円のミシンを、26万円で買いそうになった(わが老親とピッタシ同じ!)という男性が、たまたまマーケティングの専門家だった。彼は、不可解なミシンの訪問販売と、ミシン業界そのものに興味を抱き、このサイトを立ち上げた。2000年7月にスタートし、専門家の目でリサーチしたミシン業界の実情が、リアルに考察されているが、掲示板は一時、被害者たちの書き込みで大いに賑わったらしい。2002年8月、ほぼ問題は出尽くしたとして掲示板は閉鎖され、コンテンツも翌月以降更新されていない。しかし、書かれてあることは、現在でもすべて有効である。
 これは「ミシン問題」が消費者に周知徹底され、問題が解消されたのではなく、ミシンの訪問販売にしろメーカーにしろ、何の変化もせずに、そのまんま同じ形で現在も継続していることを意味している。
http://homepage2.nifty.com/mamba/index.html



 わたしが「ミシンの迷信」で、もっとも教えられたのが、プライベート・ブランド(PB)商品による「チャンネル別商品仕立て」という視点だ。身近な例で言えば、スーパーがメーカーに発注して、自社専用の商品を作らせるのが、PB商品だが、普通、この場合はメーカー名を隠し、自社ブランドを表に出して、値段は当然メーカー品より安い。ところが、ミシン業界では、訪問販売や通販会社、大型小売店などが、メーカーにPB商品を発注し、それぞれ別の機種名を持ちながら、メーカーのブランドを押し立てたうえで、なんと値段がメーカー品より圧倒的に高いのだ。場合によっては、2倍以上!
 そして、メーカーでは販売しないような1万円以下の機種、つまり「おとり商品」だが、これも注文に応じて供給されている。超高価格と超低価格の両極端があって、その間が存在しない。これが、ミシンの訪問販売なのだ。
 PB商品が乱発される結果、メーカーのブランドを冠しながら、似たような性能を持つ、販売チャンネルごとに違った機種名のミシンが数多存在し、値段もそれぞれに異なるという、一種異様な事態を惹き起こす。この異常事態が恒常化し、構造化されたのが、まさにミシン業界の現在に他ならない。メーカーがこれを知らないはずはなく、「ミシンの迷信」では2回にわたって、メーカー、販売店にアンケートを行ったが、一切無視されたとか。
 余談になるが、わたしが長年通っているフィルムの現像所、東映ラボテックは調布市にあり、屋上に上ると、隣の「JUKI」の歴史のありそうな社屋(工場も兼ねているのだろう)が見える。窓の内側では女性工員が働き、どことなく篤実そうな社風を思わせるその佇まいに、わたしは大した理由も無く「JUKI」に好意を寄せてきたが、この会社も間違いなくミシンの詐欺的商法の片棒を担いできたのだと思うと、いささか暗い気持ちになった。
 平和で着実な家庭のシンボルのようなミシンだが、レッキとしたメーカーと詐欺まがいの訪問販売が、相補的に手を携え、表裏一体となった、驚くべき業界構造である。インターネットの世界では、相当に知られた話題であったようだが、ミシンを買おうとするすべての人がネットで検索するはずもなく、また、パソコンに馴染むには地域格差、年代格差があって、その結果の必然として、地方の老人世帯が主要ターゲットになっているようだ。
 もっとも、首都圏に住む妹の地元でも、同じ「○○ミシンセンター」の新聞折込みチラシが入ってきて、ネットで調べたら代理店まで募集していたとか。ミシンを購入しようとする世代は、情報に疎い高齢者が多く、その意味では、都市であっても、チラシに引っかかる消費者は少なくないのだろう。また、そのチラシに記されたフリーダイヤルの番号は、地方の両親がかけた番号と同じであり、相当広域にわたって組織的に運営されていることが、如実に示されている。



 妹が、両親に県の消費者センターに相談することを勧め、父親が電話すると、それは「次々販売」に当たると指摘された。一度製品を購入した顧客から、修理などの依頼があった場合、まともに修理しないで、新たな製品を買わせるのが「次々販売」だ。ミシンの場合は、相当の高額で下取りするが、それは全ての製品がPBの専用品で、「定価」などあって、ないようなものだからだろう。
 県の消費者センターの、わたしの父親に対するアドバイスは、販売員が持ち帰ったミシンを確実に戻させるために、文書で申し入れた方が良い、というというものだった。クーリング・オフが過ぎているので、せめて現物を確保するという意図なのだろうが、こちらは彼らが販売するミシン、特にエルナには不信を抱いているのだ。
 わたしは「ミシンショップ××」が存在する××市の消費生活センターに電話し、騙された消費者をバックアップするような、何か法的な手立てはないか訊ねた。電話に出た女性は、まずわたしがどこに住んでいるのか、被害者はどこの住人か、まず確認する。どうやら市民が相談を受ける対象だと言いたいらしい。なるほど、わたしも両親も××市には無関係だが、売りつけた相手の会社が、市内に存在するのである。こうした相談が、他にも寄せられていないか聞くと、キッパリ「それは答えられません」と返って来た。
 いかにもお役所的な対応に、わたしは多少イライラしてきたが、先方は「それで、どうしたいんですか?」と尋ねる。わたしは、一瞬詰まったが(だって、実際どうしたら良いのだろう?)原則論として「ミシンは、もう要らないから、支払ったお金を返してもらいたい」と答えた。すると「それならジス交渉ですね」と、電話の向こうの彼女は言う。
 ジス交渉? ディス・コミュニケーションみたいに、交渉に馴染まないということか? 不審に思ったわたしが何度も聞き返すと、「自主交渉」が田舎風になまっていることが判明した。そんなことなら、最初から消費者センターになど相談しない! いささか頭が爆発したわたしは、その勢いで「○○ミシンセンター」のフリーダイヤルに電話した。「ミシンショップ××」の電話番号は明かされていない。電話は全て広域のフリーダイヤルに伝言して、相手からの電話を待つ。本人の携帯も教えない。生き馬の目を抜く、巧緻なノウハウが反映しているのだろう。
 最初から「苦情を受ける窓口はないのか?」などと思い切り不機嫌なわたしの電話だったが、間もなく営業担当者からかかってきた。わたしは、彼らがやっていることは「おとり商法」と「次々販売」のミックス形態であること、エルナがシンガーと提携しているなどと嘘をついて売りつけたこと、そのエルナの製品の「下糸がつっているのは、コンピューターミシンでは普通」という説明も「シンガーハッピージャパン」によって否定されたこと、またわたしが調べた限りでのミシン業界の詐欺的構造を、洗いざらい並べ上げると、相手はすっかり辟易したようだった。
 自分から「下取りの契約を破棄し、当初のシンガーミシンを完全に調整して納品し、3ヶ月前の6万3千円は返金することで、了解してもらえないか」と言い出した。わたしも、2年前の26万5650円を取り返すことは無理だろうと踏んでいたので、そこでいったん電話を切り、当事者である両親、それに彼と直接対面している妹に電話して、先方の条件を伝えた。あいかわらずシンガーに信頼を置いて、エルナのマシンに不信を持っている両親は喜び、妹も賛成だったので、もう一度「○○ミシンセンター」に電話し、相手の電話を待って、納品の際には再び妹が同席し、ミシンをチェックすることを伝えた。
 詐欺まがいの割には弱気だが、リフォーム詐欺のような明白な剥ぎ取り行為ではなく、クーリングオフを明記した契約書を交わすなど、手続き的にも金額的にも、詐欺行為の一歩手前のグレイゾーンにポジションを置く作戦のようだ。だからこそ、トラブルはヤクザのように脅して黙らせるのではなく、できるだけ話し合いに応じるスタンスを取っているのではないか。



 わたしは納品に当たって、今回のミシンの訪問販売と、ミシン業界の表裏一体の構造について、事例研究をA4の用紙4枚にわたって詳細に文書化し、具体的な経緯を記しながら、何が行われ、何が問題であるか指摘した。それは両親を啓発するためでもあったが、一方で、電話で交わした営業氏との口約束が誠実に履行されなかった場合は「○○ミシンセンター」の本社(別の名前で大阪にある)を相手に交渉すること、近隣の多くの市町村に、このレポートを閲覧してもらい、住民の注意を喚起すること、新聞社と販売店には、詐欺行為の片棒を担ぐ折込みチラシの是非を問うこと、県内の各消費者センターにも、このレポートを送付することなどを書いた。
 もし、納品されたミシンが完全でなかったり、返金が曖昧だったりした場合は、この文書を相手に見せるよう、妹に依頼した。自分ながら、何というシツコイ性格だろう。幸い、納品、返金ともに順調に行われ、文書を見せる必要はなかった。
 しかし、ミシン業界は、一体どうしてこんなことになってしまったのか? 素人なりに愚考すると、かつての「一家に一台」ミシンがあった時代から、衣服の使い捨て時代になって、需要は一定程度あるにも関わらず、日常的に売れる製品ではなくなった。「町のミシン屋さん」は消え、その意味では、通信販売や訪問販売の必要性がある。おそらく流通段階のドラスチックな変容があったのだろうが、しかしメーカー品の2倍も高い値段でミシンを売る「おとり商法」に、有力メーカー全てが業界ぐるみで加担している構造は、根深い病理現象ではないか。
 それでは、消費者は、なぜバカ高いミシンを、説得されるままに買うのか? 訪れた販売員が、言葉巧みに粘る以外に、
1 コンピュータ化という形で、素人には分からないハイテク・ミシンのイメージが与えられている。
2 いかに多機能であっても、ミシンの性能のすべてをフルに使っている人は少ない。実際にはわたしの母親のように、ただ持っているだけの人も多く、製品的な問題が顕在化しにくい。
3 冷蔵庫やTVのように日常的な使用するものではなく、情報に触れる機会も少ない。そのため「最近のミシンは、そんな値段になっていたのか」と思い込みがちだ。いわば、情報のエアポケットのようなところに、ミシンが位置している、
 こうした素人の憶測とは別に、固有の歴史にもとずいた明確な理由があって、現在があるはずだが、一般消費者にとっては謎としか言いようがない。業界内部からの証言が求められるが、もし今回このブログに書いた内容に誤りがあったら、率直にご指摘いただきたい。必要があれば、継続的にミシン問題に取り組む所存。
 情報のエアポケットのなかを、今日も「おとり商法」の2人組が、町から村へ、あるいは都市部の奥へと、ミシンを積んだ車を飛ばす。

■訂正■
 上に「それらのメーカーのサイトを調べたが、コンピューターミシンでも、30万円なんてしない。最高級の機種で、せいぜい15万から18万円ぐらいなのだ」と書きましたが、これは不正確でした。各社のコンピュータミシンの最上級機種の値段は、シンガーとブラザーが20万円前後、蛇の目が23万円、なかでJUKIのみが30万円と24万円のものを出しています。しかし、いずれも各社一機種のみで、訪問販売用のPB商品に、30万円前後の機種がゾロゾロ並んでいるのは、いかにも不自然です。


comment

○○ミシンセンターだけではなくミシンのメーカー直販店の営業マンもお年寄り相手にかなりあくどい販売をしている人もいますよ。実際高額なミシンを売らなければ給料が歩合制で安いミシンを売っていたら手取りが少なくなるからです。私の友達もミシン屋さんですがチラシを見て、〔○○ミシンセンターでは11万位のミシンを4万いくらにすると言うので、それ位に値引きしろ〕と、言うお客がいて困る。本当に良い品のミシンはそんなに値引きできない。あれはその店でつけているオリジナルの品だから と 言っていました。それと2年以上前に修理に行った所から電話で〔今初めて使うのだが調子が悪い〕と言われるので行ってみると針が逆についていて、あきらかに何度も使用しているのが分かったのだが新しい針に付け替え修理をした所〔いくらですか〕と言われたので、修理をしている間中〔○○の電気屋は悪いところを無料でしてくれた〕としつこい位言っていたので、針を新しいのに変えたので500円いただけますか と、言うと〔それなら針を除けて持って帰ってくれ〕と言われて 頭にきて 代金は要らない と 言って帰ってきたそうです。自分の店で買ったミシンでもないし、車で30分かかる所迄行って気分が悪いと、ご主人が腹を立てていたそうです。ちなみにその日はご主人の誕生日だったそうですよ  お客の中にもこんな人もいると、ぼやいていました。このご主人、お客が、コンピューターミシンを買いに来ても、直線とジグザグが付いていれば良い。刺繍なんかは最初珍しい時しか使わないから要らないと、売らないそうです。

  • はなちゃん
  • 2007/07/13 10:54 PM

私は、六年前までシンガーミシンで、修理をしていました。
確かに、当時からこれに近い販売がありましたが、今、メーカは何も対策はしていないです。私の周りでも五、六人の知人が騙されるところでした。全部私が修理して今ではみんな洋服など作っていますよ。

  • カタ
  • 2006/10/22 10:35 PM

「自分でミシンを作って、売った」! すごいお父さんです。ぼくはそういう人を、無条件で尊敬しますね。「上野の部品屋」というのも、昔バイクに乗っていた頃、上野界隈によく行ったので、なんとなく雰囲気が伝わってきます。90年代にシオヤマなんかとソウルに行った時には、そんな雰囲気の通りが、まだ結構残っていました。
 モノとカネに関するご指摘は、さすが現象の背後に隠れてある、見えにくい現実をワシ掴みにする、エンテツさん流だと思いました。ぼくは30万円という金額に血が昇ったのでしょうが、リフォーム詐欺なんて1千万円、2千万円なんて、ざらみたいです。もしそんなことが身近にあったら、ぼくは自分のことでもないのに関わらず、悶死しているのではないか。
 そういえばエンテツさん、「俺は一時期マーケティングで飯を食ってた」とよく書かれていますね。ぼくはこういう金融やら資産やらの話を聞いたり読んだりすると、頭の中のゆるい歯車が、いっせいに操業停止する音が聞こえてきます。

ああ、ミシン。おれの親父はおれが小学校1年ぐらいから高校卒業するまでミシンの販売修理を生業にしてました。1950年ごろから62年ごろまでということになりますか。そのころは、上野周辺の部品屋から部品を買って自分でミシンをつくって、売っていました。田舎過ぎて、シンガーミシンは名前を知っていても見たこともない人がほとんで、うちのミシンはよく売れました。しかし、おれが高校生になったころから、ジューキやブラザーの営業マンが、うちの市場を荒らすようになり、おれが高校卒業して上京した年ぐらいに、うちは倒産しました。

ま、それはそれとして。イマは、モノそのものより、モノを担保がわりに利用してカネを回転させて儲けるという金融が経済の基本になっていますから、実際のモノの価値も値段も、どれぐらいが適正かという基準などなくなっている。そこにつけこんで、サギまがいの商売が横行する。ということもあると思うのです。けっきょく、やり方が適法かどうかで、サギかどうか決まるだけで、本質やっていることは、どこのメーカーもおなじようなものだし。以前に「投資ジャーナル」事件など違法あつかいで騒がれましたが、いまじゃ、あんなことアタリマエになっているし。出版社だって、本をつくれば、それを資産勘定にして金融を回転させているだけで、だから本だって株券とおなじですよ。作品じゃなくて、金融したあと売れなきゃ、タダの紙くず、さっさと断裁したり。ということが、根本にあるんじゃないでしょうかねえ。










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