2019/10

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 凡そ誰の役にも立たないと思われるが、自家剃髪に関する実用記事を書いてみたい。丸坊主に剃り上げることには、どのようなメリットがあるか? 停滞した脳に、冷えた風を吹き入れたいとか、自分の身体に付属する邪魔っけなものを払い落としたいといったような、主観的なモティーフは廃し、現実的に、どのような役に立つのか、また、自分で毎度剃るためには、どのようなコツがあるのか、改めて検討してみたいのだ。



 まず、第一に挙げるべきは、「雨が降ってきたことに、誰よりも早く気づくことができる」ことだろう。それまで髪の毛によってカバーされていた、頭蓋の表皮は、大気に向かって剥き出しにされた今、まことに敏感であり、雨降りの予兆に過ぎない微細な一滴にも、素早く感応する。もちろん、風のそよぎや、太陽の陽射しに対しても同様であり、坊主頭は、表皮を通して、周囲の自然と交感するようだ。誰よりも早く、雨が降ってきたことを感知したからって、それが何だ? と言われれば、それまでの話ではあるが。
 第二点は、「身を置いた周辺の、熱源や、時には光源の方向性を察知することができる」ことだ。第一に挙げた、頭皮の敏感性に通じるものだが、特に白熱電球の存在を察知する能力にかけては、髪を生やしていた頃には信じられないような、センシティブな感覚を発揮する。時には、はるか頭上の蛍光灯の存在を感知することもあるが、これまた、だから、どうした? と言われれば、答えに窮する。しかし、まだ経験してはいないものの、付近で火事が発生した際には、壁や床を透して、いち早く熱の発生を感受するのではなかろうか。また、真っ暗闇で乱闘になった場合に、頭センサーの存在は、有利に働くような気もするが、もっとも格闘術のイロハも知らないのだから、そうした状況を設定するのは、誇大宣伝というべきだろう。



 第三点は、「自らの身体の一部であるにも関わらず、暗黒大陸とも言うべき頭蓋部分が、日の下にさらされ、新たな自己認識を迫る」ことが挙げられる。わたしは、自分の鉢が大きいのは、帽子を買う際の困難によって知っていたが、頭頂部が思いがけず、上部に伸びていた。また、それまで髪の毛によって遮蔽されていた、見慣れぬ秘密の光景が、ある種の衝撃をもって露出する。わたしの場合は、小学生の頃にブランコから逆さまに落ちて、その瞬間に生じたカマイタチによって10数針縫った傷跡が、頭頂部に鎮座している。(カマイタチは、大気中に瞬間的に真空状態ができて、人間の表皮などを、カマの形に裂く現象)。
 また、その傷跡の背後には、粉瘤(ふんりゅう)という小さなコブがあって、これは老廃物が溜まってできたものだというが、病院で、切開して除去するほどのことではないと診断され、三十代からずっと、わたしの頭に同居している。直接に眼で見たことはないが、触ってみると、表面が円く禿げているようだ。つまり、わたしの頭頂部には、曲線の結構長い禿げ(カマイタチ)と円形の禿げ(粉瘤)が並んでいるわけで、これが思春期の頃だったら自殺でもしたくなっただろうが、オッサンになると、これも自分の一部であると、図太く自己肯定するようになるから、おそろしい。
 当初は、プロレスラーの天竜源一郎をもじって、フンリュウ源一郎などと言って笑ったものだ。この他、年を食ってから、左側頭部に、かなり大き目のシミが、三つ並んで、できた。ゴルバチョフの地図様のシミには及ばないが、かなり目立つことは間違いない。
 これらは、本来髪の毛の奥深く、隠されていたもので、わざわざ露出させることに何のメリットもないように見えるが、自分の日常の顔の虚構性の証明にはなるだろう。もっとも、だったら服を何も着ない素裸が、「ほんとうの自分」なのかといえば、花田清輝も言うように、それもまた「もうひとつの仮面」にちがいないが、ある種の自己認識の修正を、剥き出しにされた頭蓋が迫ることは、間違いない。



 第四点は、下部構造に属するが、「散髪代が無料であるうえ、シャンプーやリンス、整髪料の類が一切要らない」ことである。わたしもかつて、髪を明るいオレンジに染めていた頃には、近所のすみれ美容室(狛江在住時代)に定期的に通い、一回1万円強を支払っていたが、それはわたしが脚本を担当する浜野組が、盛んにピンク映画を撮っていた頃であり、その後自主製作に突入するに至って、そんな贅沢は許されなくなった。わたし自身のピンク映画や、ゲイ・ピンクの監督作品などは、もともと年に数本で、趣味の範疇に属し、経済生活の柱にはならないのだ。
 余談になるが、剃った頭を洗うのは、洗顔用の石鹸か、それともシャンプーか? 髪の毛がないのだから、シャンプーを使う必要は無さそうだが、シャンプーの効能には、頭皮の脂を落すなどの効能が謳われており、もしかしたらシャンプーを使うのが正解かもしれない。わたしの場合は、もっとも、ここ数年、ボディシャンプーやシャンプーなどを全廃し、頭の髪から足の先まで、無添加の石鹸で通しているので、なんら悩む必要はなかった。目下のところは、顔の延長としての頭皮、という解釈である。
 第五点は、心理的なものであり、「薄くなった髪を、くよくよする必要がない」ことが挙げられる。中高年の男性が、往々にして丸坊主にする確率が高いのは、この要因によるものだろう。わたしもまた、若い頃から髪が薄く、むしろ現在、剃刀でわざわざ剃るほどに、よくもまあ髪が残ったものだという気がしないでもない。もっとも、髪が薄いのと、テカテカ剃りあげているのと、どっちを選択するかといえば、一概にどちらとも言えず、おそらく気質によるだろう。わたしの場合は、残った髪に綿々と執着するよりは、きれいサッパリ丸坊主を選んだ。もちろん、一般的には、カツラや植毛といった選択肢もあり得るが、わたしの経済生活では、はなから視野に入ってこない。
 このようなメリットが、わたしの場合、丸坊主にすることによって生じるが、もちろんデメリットもあって、その代表的なものは、髪の毛という緩衝材をなくして、衝撃がモロに頭部に及ぶことが挙げられる。頭をぶつけて、怪我をしやすいのだ。これの対策としては、帽子をかぶることが有効だが、それは外界と頭蓋の感覚的な交流を遮断することにもなり、状況に応じて使用することが望ましい。



 それでは、今後、自分の手によって頭を剃ってみたいという、おそらくは、ごく少数の諸氏のために、わたしの経験した範囲で、要領を伝授したい。題して、自家剃髪要諦七か条。

第一条 思いつきで、突っ走ることなかれ。
 剃る前の第一ステップとして、剃刀で剃ることができるぐらいまでに、髪の毛を刈り込むことが必要だが、これは鋏を丁寧に使うことで、バリカンで刈ったぐらいには、きれいに仕上げることができる。ここで一端止め、翌日に安全剃刀による剃髪という二段階にすれば、後日の後悔を最小限に食い止めることができるだろう。わたしのように、酔った勢いで髪の毛を切る場合は、眉まで剃り落とすような暴走を防ぐだけでなく、安全の意味からも有効である。というのは、鋏で頭皮を傷つけることはほとんどないが、直接皮膚に当てる剃刀の場合は、安全剃刀といっても、往々にして小さな切り傷を作ることが多く、まして、酔っている場合は尚更である。朝、目覚めてみたら、枕が血だらけだったという経験が、わたしには何度もあった。
 なお、鋏を使って刈り込む場合、鋭い角度で鋏を入れると、虎刈りになって、剃る以外の選択肢はなくなる。なるべく鋏の刃を横にして、スキーでいえばエッジを立てない形で、髪を切ることが望ましい。そうすれば、五分刈り程度から、再スタートして髪を伸ばすことも可能だ。



第二条 サウナに入ってから剃るのがベスト。
 わたしの場合、住んでいるワンルームマンションの電気給湯システムが高いため、お風呂代わりにスポーツセンターのサウナに通っている。それで、頭を剃るのも、サウナの洗い場となるが、剃る前にサウナで頭皮からも汗をたっぷり流し、毛髪を充分にふやけさせてから剃るのが、もっともスムーズに頭を剃るコツのようだ。床屋でヒゲを剃る際に、蒸しタオルを当てるのと、同じ原理なのだろう。近所の年金センターが、世論の批判を浴びて売却され、やむなく移った歌舞伎町のスポーツセンターだったが、普通のサウナ以外にミスト(霧)のサウナもあって、これも剃髪に具合が好いようだ。

第三条 頭を充分に洗ってから、剃るべし。
 最初、わたしは頭を剃った後に、洗顔および洗頭(?)を行なっていたが、あっという間に安全剃刀の刃が切れなくなることに気づいた。毛髪や毛根には思いがけないような量の脂が付着しており、初めに十分に頭を洗ってから頭を剃れば、安全剃刀が百倍ぐらい長持ちする。替え刃は、一本の剃刀を買うのと変わらないぐらいの値段なので、まずは洗顔&洗頭から始めるのが経済的である。剃る前に洗え。

第四条 視覚に頼らず、触覚、聴覚を動員すべし。
 風呂場には湯気が立ち込め、クリアに見えるつもりの鏡でも、剃り具合をチェックするには不十分なことが多い。むしろ指先の触覚の方が、剃り残しを感知するには、はるかに有効である。また、耳を顔側に向かって倒し、耳の穴をふさぐと、頭を剃るゾリゾリという音が、頭蓋内部に反響して聞える。これは、剃刀の刃が、ただ表面を滑っているのか、確実に毛髪の根っこ付近をグリップして(?)剃り上げているのか、一発でわかる。頭蓋内部に向かって、耳を澄ますべし。

第五条 石鹸は薄く塗り、泡が目に入らないように要注意!
 サウナに入った場合は、石鹸は一回塗りつければ充分で、あんまり泡の量が多いと、額を通過して目に入る。これがまた、猛烈に痛いのは、剃った毛の、細かいクズが、泡のなかに含まれているためだろう。硬く鋭い切っ先が、眼球に突き刺さってくるようだ。まるで目潰しにあったみたい。
 わたしが眉まで剃った時には、頭を剃った石鹸の泡が、ストレートに目に流れ込み、思わず悲鳴を上げた。眼球を汗などから保護するために、眉という障壁は必須のものであるという人体の合理性に、心から納得。
 途中でいったん、シャワーをかけて流した場合、再度石鹸を塗る必要はなく、ほぼスムーズに剃ることができる。シャワーを頭にかけ流しながら、流れるお湯の中で剃刀を使うのも、なかなか快適だ。道路工事の現場で、水をかけながら、回転する丸型の刃でコンクリートを切断しているのを思い出し、なんとなく好い気分になる。



第六条 最終的に湯気のない部屋の鏡でチェックする。
 いくらきれいに剃ったつもりでも、不規則な凸凹のある頭を、独力で、きれいに剃り上げることは、不可能に近い。利き手が右か左かで、盲点のできる箇所も異なる。できれば、両手を使って、剃刀の角度も変え、何度も繰り返し、アタックすることで、輝くような頭蓋が現われる。しかし、浴室内の鏡では蒸気に影響されるので、最終的には浴室外の鏡で点検することが肝要だ。頭を剃るという、いくらかロマンティックでないこともない思いが、蒸気とともに雲散霧消し、むくつけき自らの素顔に直面する、シラケタ瞬間でもあるのだが。

第七条 毎日剃るのが望ましいが、三日ぐらいの間隔なら、問題なく剃れる。
 髪が伸びるのは、思いのほか早いものだ。一日経てば、指先にチクチクしてくる。あまり伸びると、安全剃刀で剃るには、手間がかかり過ぎるが、まあ、三〜四日なら、何とかスムーズに行くようだ、
 もっとも、これは、あくまでわたしの、比較的柔らかい毛髪の場合であって、極度に硬い髪の場合は、こんな具合にはいかないだろう。男女を問わず、丸坊主を志す諸氏の、自己の髪の条件に合わせた、自家剃髪の要領を開発して頂きたい。わたしのケーススタディが、いくらかでも参考になれば、望外の喜びである。


comment

 老いた両親の住む南会津の実家に帰って、大雪との異種格闘技戦を展開していますが、例年にない寒さにビックリ。細谷先生、ぼくはあまりの寒さに、夜眠る時に、毛糸の帽子をかぶって寝ました。布団は電気毛布で温かいのですが、剃りあげた頭に、しんしんと寒さが凍み込んでくるのです。その代わり、雪の上で汗をかいた時に、太陽が出たりすると、坊主頭で陽射しを受け、何という心地よさ! 爽やかさ!
 こないだから、英文のコメントが、たぶん自動でシツコクくっついてくるのは、あれは何だろう。削除するのも面倒なのですが、どんどん増えていきます。対策をご存知の方は教えてください。

  • kuninori55
  • 2006/01/13 10:51 PM

クニノリ氏の見立ては正しいのである。

第四間氷期の終わりか、今年の冬は寒いぞ。
それでも、何も被らずスキンヘッドで街を行く漢も居るのお。脱帽。













  • まこと
  • 2006/01/12 12:26 AM

細谷先生も、丸坊主の愛好者でしたか。そういえば、最初にお会いした横浜の女性センターでは、毛糸の帽子に大きなマスク、眼鏡といったイデタチで、わたしはすっかり怪しい人だと思いましたよ。ご自身は「数段階に調整可能」と自負されていますが、段階を増すごとに怪しさも倍増するのではないでしょうか。しかし、普通に髪を伸ばしている人を「毛糸編みの帽子を被っているようなもん」と仰るのには、笑いました。今年もよろしくお願いします。

電気かみそりの問題は、頭が顎と違って、天の方を向いているので、電気かみそりを逆立ちさせた形で剃るので、確かに剃り粉が落ちてくること。

解決策
1、自分が逆立ちして剃る。これは、実用性に難あり。
2、剃りと同時に剃り粉を吸引する電気かみそりを開発。
  結構、売れるかも。

スキンヘッドは、夏はまじ涼しい。皆、毛糸編みの帽子を被っているようなもんだもん、よくやってるよ。
クールヘッドっす。冬は帽子で数段階に調整可能。

  • まこと
  • 2006/01/08 2:03 AM

エンテツさん、今晩は。ご指摘を受け、一瞬呆気にとられました。なるほど、電気カミソリという選択肢もあったのか。自分が使っていないという、それだけの理由で、視野狭窄に陥っていた…と反省しかけたのですが、考えてみたら、三十代の頃は、電気カミソリで頭を剃っていました。そして、剃った髪の粉を、首やら背中やら顔面やらに撒き散らしていることに気づき、次第に安全カミソリに移行したのです。確かに電気カミソリは、手軽で早いのですが、剃り上げた後の清浄感と満足度において、格段の差があります。もっとも、電気カミソリがその後、剃った時に生ずる髪の粉を、きれいに吸収するような機能的進化を遂げていれば、頭にも使えるるでしょう。出家用の電気カミソリって、ないのかな。

あのう、頭剃るの、電気カミソリじゃ、
だめなんでしょうか。










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