はて面妖な十三〜『こほろぎ嬢』大阪ロードショー

  • 2007.04.23 Monday
  • 13:42


 大阪の十三(じゅうそう)という街と尾崎翠。ミスマッチのようでありながら、常識を凌駕すること、第七官の世界で彷徨するかのようだ。阪急線十三駅西口から歩いて5分もかからない映画館「第七藝術劇場」で『こほろぎ嬢』の大阪ロードショーが、4月21日(土)からスタートした。尾崎翠作品としては前作の『第七官界彷徨−尾崎翠を探して』も、最初の1週間だけは併映される。しかし、その前に、十三駅前で見つけた上のシンボルは、一体なんだろう?



「鉄わん波平」。すでに、そうとう有名らしいが、大阪もろくに知らないわたしは、十三の地で度肝を抜かれること、しばしばだった。この街は、風俗営業のメッカでもあるらしいが、朝から昼サロみたいな店が営業していて、スケスケの衣装でお客を送り出している。風俗店の無料案内所がやたら多く「ルパン13世」だとか「名案内コナン」だとか駄洒落が氾濫しているのだが、マンガの絵柄もそのまま使用。著作権の心配をしてしまうが、まあ風俗関係なら有り得るだろう。しかし、れっきとした駅前の商店街、といっても一本の路地なのだが、これを「波平通り」と呼び、シンボルが「鉄わん波平」、すなわち、姿かたちは鉄腕アトム、顔だけ「サザエさん」のお父さん=波平氏の顔なのだ。



 これは、しかし…すごいね。合体させられた両方とも、著作権にシビアなことで知られているが、ここまで堂々とやっているのは、何らかの形で諒解を得ているのか。検索してみると、この看板の「鉄わん波平」の文字とその上のキャラクターに覆いをかぶせ、遮蔽していた一時期があったようだ。おそらく問題になったのだろう。その後、了承されて覆いを外したのか?
 この通りのことを「mixi」に書いたら、「サザエボン」みたいだという指摘があった。こちらは、髪型や顔の輪郭はサザエさんで、顔はバカボンのパパなんだそうだ。Tシャツなどにプリントして、関西では売られているという。初耳で笑ってしまったが、検索すると「サザエボン」の発祥もどうやら十三らしいのだ。恐るべき街である。



 あるいは、十三とサザエさんは、何か深い因縁があるのだろうか。散歩していたら、キャバクラの看板に、サザエさん一家が描かれていた。確かに有名なキャラクターではあるが、戦後のマンガの古典であり、全盛時代は何十年も昔の話だろう。サザエさんに引かれてキャバクラに入ってしまう男が、この街にはいるのか? どうやら局地的に、磯野家のファミリーは今でも現役であるらしい。
 そういう目で「第七藝術劇場」というネーミングに触れると、なんだか怪しく見えてくるが、松村支配人によれば、フランスで映画が「第七芸術」と呼ばれたことに由来する、由緒正しい名前だという。ビルの6階、エレベーターを降りて、目の前の劇場の看板の右手にはボーリング場が広がり、左手が映画館の入り口だ。



 十三の駅のホームからも見える、ビル屋上の黄色いボーリングのピンが、「第七藝術劇場」の入っているサンポードビルの目印だ。十三駅西口を出て直進し、大きな横断歩道から見える「十三サカエマチ商店街」にある。ビルの入り口や、ビルの中ほどの壁面にも、でかいボーリングのピンが据えられているので一目瞭然。



 サンポードビルの向かいにある「ねぎ焼き やまもと」は、大阪でも有名な人気店らしい。最初、どうしてネギだけ焼いて食べるのか不可解だったが、お好み焼きのキャベツをネギに代えているのだとか。実際に食べてみたが、絶品だった。軽い食感で、いくらでも食べれそうだ。また、ならびの「がんこ寿司」のお昼定食は、安くて旨い。うどんにウルサイ浜野監督は、セットで付いてくるうどんに唸っていた。



 いや、呑気に食い物の話をしている場合じゃなかった。『こほろぎ嬢』や『第七官界彷徨−尾崎翠を探して』の世界は、果たして大阪で受け入れられるのかという大問題があったのだ。3月にマスコミや関係者を招いて『こほろぎ嬢』の試写をおこなったのだが、映画が終わった後、不気味な沈黙が支配する。なかには顔を紅潮させ、憤然として帰る男性もいた。大阪ロードショーに向けて、暗雲が漂った瞬間だった。



 わたしはすっかり悲観してしまったのだが、ここで動き出したのが、鳥取県の大阪事務所だった。4月中旬に浜野監督が大阪に行き、鳥取県事務所のスタッフとともにマスコミ行脚。わたしもポスターやチラシをかかえて同行したのだが、いきなり依頼されて面食らっている記者氏もいて、なんだか「超売れない演歌歌手のキャンペ−ンの付き人」にでもなったかのような気分だった。ところが、公開間近になって続々新聞記事が出始め、いずれも大きなスペースを割いている。予想したようなパブ記事ではなく、どれも映画と尾崎翠、浜野監督を真面目に紹介してくれている。『こほろぎ嬢』の製作が、鳥取県支援事業とはいえ、わたしは改めて鳥取県大阪事務所の日ごろの活動に敬意をはらった。



 上映は各1日1回。『こほろぎ嬢』は最初の1週間(27日まで)がお昼の12時35分から、『第七官界彷徨−尾崎翠を探して』がその前の朝10時30分から。(『こほろぎ嬢』は4月28日(土)から朝の10時20分からのモーニングに移り、5月11日(金)まで、計3週間の公開となる)。けっして恵まれた時間帯ではないが、劇場側にもメインで売りたい作品があるのであろう(小野町子風に言えば)。
 しかし、新聞記事がほとんど新作の『こほろぎ嬢』に集中し、朝10時半からの『第七官界彷徨−尾崎翠を探して』はキビシイと予想されたが、浜野監督が舞台挨拶した21日・22日・23日の3日間、思いのほかのお客さんが来てくれた。鳥取に縁のある方はもちろんだが、大阪、そして関西で尾崎翠の読者が増えているのも、確かな事実のようだ。



 浜野監督のトークも自ずとテンションが上がる。なかには、昨年10月の鳥取先行ロードショーで『こほろぎ嬢』を観たが、もういちどぜひ観たいと、わざわざ鳥取から観に来てくれた二十代の女性もいた。



 右側でパンフレットを持っているのが『第七藝術劇場』の松村支配人。



 唐突ながら、上は付録写真。ぶらぶら十三駅付近を散歩していたら、神社の境内で妙な掲示を見つけた。[手水]と書いて「ちょうず」と読むのかと思ったら「てみず」なのだという。手を洗うだけでなく、口をすすぐのが面白いと思って、ホテルに帰って検索したら、神社の古式ゆたかな作法だった。絵が何となく戦前風なだけで、神社に参る前の作法としては正統的なもの。





 「第七藝術劇場」とは逆側の、十三駅東口から3分ぐらいの神津神社。かつてはこの辺は神津村だったらしい。手水を使うこの建物を「手水舎」(てみずや)というのだそうだ。そういえば、どこの神社でも手を洗うところがあるが、口まですすぐのが正式(?)なのだ。わが身の無知を知る。思わぬ勉強をした。これから神社を訪問したら、上の素敵な絵を思い起こそう。



 もひとつ付録。波平通りのお店のシャッターに描かれていたものだが、鉄腕アトムなみの使命を果し、十三の飲み屋で疲れを癒すサザエさんパパの波平。カツラなのかヘルメットなのか、アトムの頭を外して、ほっとくつろいでいる。3杯目の大ジョッキを飲む後ろ姿に、シブイ哀愁が漂っているような…。



 まあ、ここまでくれば、著作権云々はどうでもいいような気がしてくるから不思議だ。サザエさんファミリーと十三商店街の、変わらぬ繁栄を祈りたい。

●第七藝術劇場=電話06・6302・2073。大阪市淀川区十三本町1−7−27 サンポードシティビル6F
http://www.nanagei.com/


<神津神社より>
コメント
いや、やみぃさんに十三はあわないと思う。変に断言してしまいますが、対極にあるような気がする。だからこそ住んでみたいと仰ってるのかも知れません。わたしは根性を据えれば、住めるかもしれない。物価が安いのです。野菜や惣菜の安さは感動的。ただ、波平通りのシャッター絵は、写真以上でもなければ以下でもありません。
いつもわたしたちの映画を応援して頂いて、感謝しています。これからこのブログも再建したいと考えていますので、よろしくお願いします。
21日〜23日、盛況でよかったです。
引きつづき関西の友人達に声を掛けています。
なんだか十三あたりに住みたくなってきました。
波平通りのお店のシャッターの絵、見てみたいなぁ♪
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