2017/12

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昨夜の京都本町館ツアーは、最終的に思わぬ賑わいとなった。
といっても、7時20分に拙作が始まった時には、昼の京都シネマから一緒に移動してきた東映の土橋亨監督や神戸新聞の平松正子記者が、浜野組作品2本を観た後、浜野監督とともに呑みに行ってしまい、残されたのは、わたしと『関西ピンクリンク』の太田耕耘キ氏、それにチラホラ数人の観客という寂しいありさまだった。

さすがにピンク2本、それもエグイ浜野映画を立て続けに観ると、頭の奥に疼痛を覚える。それに加えて閑散とした場内。
わたしは、この侘しさこそピンク映画の本領であると感じ入りながら、太田君にスクリーンのピントを直してもらったりしていたら、途中から箕面市のTEAMヤミナベの若者諸君がドヤドヤ入ってきたり、関西クィア映画祭のひびの怪人が現れたりして、急に賑やかになった。

拙作が終わった時に、ヤミナベの諸君が拍手してくれたのは、思いがけない光栄だったが、彼らは引き続き浜野監督作品を観て、終映後に飲み会に参加。
一方わたしは、『ピンクリンク』の関係で来てくれた人たちや、飲み会に合わせて来てくれた尾崎翠研究者の森澤夕子さん、それに京都シネマの3本をすべて観たユーゴ人女性芸術家とともに、浜野監督たちが飲んでいる飲み屋に向った。

飲み会に参加したのは、けっきょく二十人近くになったのではないだろうか。五月雨式に参加し、五月雨式に帰っていったので、集合写真を撮れなかったのが残念。

わたしは、拙作についてmixiに書き込んでくれた前川氏や、自主映画を撮っている乾氏、唐津氏と、隅の方でもっぱら喋っていたのだが、前川氏とJ・カーペンターの『ダークスター』について、特にコンピュータと論争し、言い勝ってしまったおかげで自爆されるシーンの素晴らしさを語り合えたのは愉しかった。
怪優クリスピン・グローヴァーの奇怪な監督作品について教えてもらうなど、初めて会った前川氏だったが、どこかに知己はいるものだ。乾氏は乾氏で、拙作で見事なテンションの高さを披露した里見瑤子さん主演で、自主映画を撮る企画を進めているらしい。(当初、里見さん主演の自主映画を企画しているのは唐津氏と書いたが、太田君の指摘で乾氏と訂正します)

つい、夜の本町館ツアーの報告が先になったが、昼の京都シネマの『百合祭』上映には、前日より多くの皆さんが来てくれた。今回の浜野監督特集、次第に盛り上がってきているように感じるのは、わたしの願望が混じってのことだろうか。
この日は、2館コラボの発案者、太田耕耘キ氏を迎えてのトークだったが、土橋監督の声援などもあって、浜野監督もノリノリ。ぶっちゃけ話が炸裂する。



残り2日となった本日は、午後1時55分から『第七官界彷徨−尾崎翠を探して』(新編集版)の上映、3時40分頃から『ブラジルから来たおじいちゃん』『ルッキング・フォー・フミコ』の栗原奈名子監督を迎えてのトーク、そして4時15分から『百合祭』の上映と続く。

なお、本町館は今日が最終日だが、次週も引き続き浜野監督作品は上映され、まるで浜野特集が続いているかのようだ。

ところで、話は変わるが、京都シネマで浜野佐知監督特集の前後に、同じスクリーンでやっているのが、一時期騒然たる話題になった『ザ・コーヴ』。
わたしは7月はじめに鳥取の尾崎翠フォーラムに参加した後、打ち合わせで京都に回ってきたとき、この映画を同劇場で観たのだが、血わき肉おどるアクション映画、あるいは笑えるドキュメンタリーもどき、として大いに楽しんだ。

今回、わたしたちが静岡のロケハンを経て京都に入る前日に、京都シネマでこの映画をめぐるディスカッションが行われたことを知り、参加できなかったことを、実に残念に思ったものだ。

まず、この映画の主人公のキャラクターが、図抜けて面白い。かつて『フリッパー』というTVシリーズでイルカの調教師を務め、役者としても出演。イルカ人気を高め、水族館などで行っているイルカショーのブームを作った張本人なのだ。当時、彼はこれで大もうけした。

ところが、自分の飼っていた愛するイルカが、「自らの意志で呼吸を止め、自殺」したことをきっかけに、人間に囚われたイルカの解放運動に、ひたすら邁進していく。
イルカの自殺? 普通に考えれば、首を捻るような話だが、彼にとっては厳然たる事実であり、自分の手の中から水中に沈んでいった愛するイルカの思い出を、涙を浮かべながら語る。

以来、イルカを解放するために戦い続け、各国の警察に逮捕された経験は数限りない。どう考えても奇矯な思想に捉われた奇人であり、その彼がイルカ漁の本場、日本の太地町に乗り込んできたのだから、ドラマが盛り上がらないわけがない。

今回の撮影以前にも、彼は何度も太地町にやってきて、騒動を起こしているので、地元警察や猟師は警戒を強めるが、彼はマスクや帽子で扮装し、時には女装してイルカ虐殺の現場を撮影しようとする。
当初、監督を初めとする撮影隊も、彼の行動の不審さに面食らうが、次第にイルカの虐殺を隠蔽しようとしている町の警察や漁師、町民たちの実態を暴くことに全力を挙げるようになる。

主人公や撮影隊に接触してくる警察や漁師の顔には、日本での配給に先立ってボカシがかかっているが、おそらくそこには怪しげな東洋人の、黄色くて卑しい表情が映っているに違いない。そうだ、わたしたち日本人の典型的な顔である。

確かナレーションでも言っていたと思うが、この映画は太地町をあたかもスティーブン・キングの小説にでも出てくるような、古来伝わる土地の伝統に縛られた、呪術的な場所として描き出す。おどろおどろしい音楽も、実に効果的だ。
ドキュメンタリーという体裁をとっているので、わたしたちにとって、これほど差別的なことはない。傲慢な西洋人の高飛車なカメラ=視線が、わたしたちを頭上から見下ろしている。

しかし、その一方で、この映画の主人公や撮影隊、インタビューされる反捕鯨の活動家たちも、そうとうイカレテいることが如実に現れている。その対比が、実に面白いのだ。
地球上のイルカ解放に使命感を燃やすドン・キホーテのような主人公を見ながら、わたしは名作『ゆきゆきて神軍』の奥崎謙三を想起した。自らの妄想に向かって、あふれる行動力を駆使する主人公。このような人物のターゲットになった太地町にとっては、まったく迷惑千万な話である。

また、インタビューを受けている人たちも、かなり可笑しい。「日本付近は、イルカや鯨にとってデンジャラスなゾーンだ」という意見には笑った。イルカや鯨には知性があると力説しているのだから、日本近海には絶対近づくなと、しっかり伝言してほしい。

また、「イルカショーなどで、調教師が手話でコミュニケーションしているのは間違っている。なぜならイルカには手がない」という意見には、わたしもうっかり感心しそうになった。イルカにふさわしいコミュニケーション手段は、いかにあるべきか?
しかし、考えてみれば、あれは手話というべきものではなく、人間の間の手旗信号や、サーカスで動物を調教する時と同じ、信号の一種と考えるべきだろう。それを手話と受け止めるのは、あまりに人間中心主義で、そこにもイルカを擬人化した発想の欠陥が現れている。

それでは、この映画や、この映画の主人公のレーゾンデートル=存在理由はないかといえば、そうは考えない。どんな奇矯な偏光レンズにも、真実の一片が写り込むことはあって、わたしたちの食卓が、イルカや鯨に限らず、スプラッター的血みどろに溢れていることもまた間違いのない事実なのだ。

切れば血の出る動物や魚だけでなく、血の出ないように見える植物だって、成長の途上で人間によって無残に屠られている。ネギや大根が、わたしたちに喜んで喰われているわけではないだろう。


<錦市場で。これもまた人間による殺戮の禍々しい証明であろう>

この刺激的な、笑えるアクション映画(=フィクション)は、わたしたちに多くの考える材料を与えてくれる。太地町のイルカ追い込み漁について、本当のことを知りたければ、篤実な研究者が書いた『イルカを食べちゃダメですか? 科学者の追い込み漁体験記』(関口雄祐著。光文社新書)などを読めばいい。

この著書で、関口氏は、映画の中の入り江がイルカの鮮血で真っ赤に染まる、もっとも売りになっているシーンについて、疑問を呈している。捕殺する現場の浅い海では、イルカと漁師が入り乱れ、海底の砂が巻き上げられて海水は混濁し、大量の出血があっても濁った赤さになるというのだ。

氏は、撮影後のデジタル処理によって色が変えられている可能性を指摘するが、これはおそらく事実だろう。どんなドキュメンタリーであっても、編集され、作品として提供されたものは、すべてフィクションと捉えるべきである。

ラストシーン、主人公が胸にモニターを括りつけ、国際会議に乱入したり、東京の街頭に長時間佇むシーンは、彼のイカレタ突撃精神を見事にシンボライズして、わたしの胸を打った。奇人は、はなはだ迷惑な存在ではあるが、わたしたちの精神の偏執や歪みを、ある種の痛みを伴って体現している。

 


comment

"飲み会に合わせて来てくれた尾崎翠研究者の森澤夕子さん、それに京都シネマの3本をすべて観たユーゴ人女性芸術家とともに、浜野監督たちが飲んでいる飲み屋に向った。"←この部分”飲み会に始まり、飲み会に向かう”で結ばれる!まるで<うわばみ>みたいな文章だ。
それにしても”京都シネマの浜野作品3本をすべて観たユーゴ人”って驚異的な芸術家ですね。
恐れ入った次第です。7月末に会員に向けて配布する機関誌に同封しようと、慣れないチラシ作成にかかっています。おもて面は出来たから明日から裏面⇒いずれも『こほろぎ嬢』のパンフを多いに参照し部分的に引かせてもらってます。shunsei

  • 春声@
  • 2010/07/29 10:47 PM









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