2017/10

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これだけ手間暇かけた上映会は類い稀であろうと、わたしには思われた『こほろぎ嬢』上映会が、11月23日、福岡市で開かれた。
福岡映画サークル協議会の野田春生さんから打診を受けたのは、今年の初めだったろうか。サークル協議会のイベントとしてではなく、野田さん個人と所属するクリスティ・サークルが中心となって福岡で『こほろぎ嬢』を上映したいと言うのだ。
 
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<会場の唐人町プラザ甘棠館(かんとうかん)。二階右手がshow劇場。>

実は『こほろぎ嬢』完成直後から、以前『百合祭』を上映してくれた福岡映画サークル協議会に上映会を企画してくれるよう依頼し、事務所で関係者試写なども行った。しかし、『百合祭』と違って『こほろぎ嬢』は、内容的に映画サークル協議会の上映会で取り上げるには難しそうな感触はあった。
間もなく隣県の熊本市で、熊本大学の先生方と男女共同参画センターがからんだ大掛かりな『こほろぎ嬢』上映会が行われ、野田さんを含む福岡映画サークル協議会の旧知の友人たちが、大挙して長距離バスで駆けつけてくれた。
その日の最終のバスで帰る人もあれば、一泊して帰る人もある。わたしは遅くまで一緒に飲みながら、おそらく福岡での組織的な上映は無理なんだろうなと推測した。
そんな状況下で、個人負担で熊本まで来てくれた彼らに対し、わたしには珍しく「友情」みたいなものを感じた。わたしの彼らに対する「友情」であり、彼らの浜野監督やわたしに対する「友情」でもある。
熊本の一夜はわたしに忘れ難い印象を残した。

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<上映後に行われるジャズ演奏のリハーサルの準備。右端が野田氏>

福岡映画サークル協議会の有志が、熊本まで遠征してくれたことで「もう充分」と思っていたわたしだったが、今年初めに野田さんから『こほろぎ嬢』福岡上映会のプランを打ち明けられた。
有難いことだが、費用がかかることであり、クリスティ・サークル主催といっても実質的には個人負担になるのだろう。わたしは懸念しながらも、浜野監督作品の一般映画三作のうちで、不遇な『こほろぎ嬢』をもっとも偏愛するものであり、野田さんの申し出に「義侠心」のようなものを感じて、旦々舎に話をつないだ。
そこから野田さんの超人的な活動が始まった。『こほろぎ嬢』を福岡で見せるためには、尾崎翠を理解する必要があるとして、一方で『こほろぎ嬢通信』をコピーなどで出し、もう一方で読書会、講師を迎えての勉強会などを始めたのだ。ウィリアム・シャープとフィオナ・マクロードを探してスコットランドまで行った久留米大学の狩野啓子教授にも来てもらっている。
わたしがもっともビックリしたのは『第七官界彷徨ー尾崎翠を探して』と『こほろぎ嬢』の2本の映画の台詞を、野田さんが自分ですべて書き起こしたことだ。ここまでやるかね、とわたしは思った。

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<客席は段差の付いた椅子席から平場の座布団席まで100人ぐらい入るのだろうか>

野田さんの努力は、観客を増やそうとする努力ではない。尾崎翠や『こほろぎ嬢』に対する理解を広めようとする努力だ。メールや印刷物を通じての『こほろぎ嬢通信』は、なんと第25号(!)まで行ったとか。
当日のトークで、浜野監督が「今日の客席からは、ここぞと思うところでクスクス笑いが起きて、監督としてこんなに幸せだったことはない」と語っていたが、それも1年間に近い野田さんの尾崎翠作品を掘り下げる活動があってのことだったろう。
そんな背景もあって、わたしはトークで喋り過ぎ、まとまらない、結論のない話をダラダラしてしまって、皆さんの失笑を買った。どうもわたしの感謝の念はいつも空回りし、ろくな結果にならないことが多いようだ。(そのくせ反省しないんだけど)

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(福岡映画サークル協議会・るき乃さん撮影)

野田さんがわたしのまとまらない話についてコメントしてくれたうえ、るき乃さん撮影の写真を送ってくれたので、トーク中の写真を追加。
そう、フィオナ・マクロードとウィリアム・シャープについて話している時に「ドッペルゲンガー」という言葉が出てこない。それで連想ゲームみたいに「ポーの短編にあった…」と言ったら、客席からすかさず「ウィリアム・ウィルソン」の声。そこで「実在しない、もう一人の自分は?」と尋ねたら「ドッペルゲンガー」と即答された。脱帽。
トークの後に、福岡映画サークル協議会の掲示板で、わたしのディスカッション相手だったマグリット氏から「言葉が出てこないのは、やはり年のせい?」みたいなことを言われてしまった。また、藤野さんという女性会員は、浜野監督に「(ヤマザキのトークは)お酒を飲ませないとダメかな」と評したとか。すべてご指摘の通りだが、何となく無念でもある。

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<トークの後のジャズ演奏は、映画音楽にちなんだ曲も取り上げ、喝采を博した>

餃子屋さんで行われた打上げには、マグリット氏をはじめ熊本以来の面々や、福田恆存の文体でピンク映画批評を書く異才dropout cowboys氏、それにピンク映画の注視者である駱駝夫妻や若い女性なども参加し、とても楽しい会となった。
この歳になると、どこに行っても場違いな気がして落ち着かないわたしだったが、久しぶりに親密な空気のなかで酒を飲んだ。飲み過ぎて、二次会のことをまったく覚えていない。
ようやく記憶を取り戻すのは、野田さんたちと一緒に泊まるカプセルホテル近くの喫茶店(?)で、ジュースかなにか飲んでるあたりから。
当初、わたしは野田さんのお宅に泊めて頂くことになっていたのだが、どうせなら寝る直前まで飲んでいようと、中州のカプセルでみんなで泊まることになった。みんなといっても、最終的には野田さん、宮崎さん、わたしの3人だったが。

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<これはおそらく二次会の後の写真と思われるが、わたしの記憶がアヤシイ>

何十年か前、カプセルホテルが東京に出現した頃、興味半分で一度泊まっただけだったが、中州のカプセルホテルにはすっかり感服した。大浴場にはタイプの異なる大きな浴槽が二つと水風呂、これもタイプの異なる広めのサウナが2種あって、解放感があふれている。
また、カプセルがずらりと並んだカプセルルームは、まるで宇宙船の内部みたい。カプセル内も清潔で機能的だ。わたしは心地よく寝入った。
酔ったおかげで、わたしは朝早めに目が覚め、もう一度大浴場でサウナと浴槽を行き来し、その後レストランで朝食を食べた。納豆の大きめを頼んだら、どんぶり一杯の納豆が出て来たのには仰天したが、大いに満足して朝食を終える。
そんなことを一人でやってるうちに、野田さんたちはチェックアウトしたので、ご挨拶できなかった。改めてここで言おう。
野田さんをはじめとする福岡の皆さん、どうもありがとうございました。次は『百合子、ダスヴィダーニヤ』が控えています。よろしくお願いします。
わたしはすっかりカプセルファンになって、福岡・中州の午前の街に歩き出した。


comment

春声さま
トークでの模様をコメントして頂き、ありがとうございました。送って頂いた、るき乃さん撮影の写真と合わせて、記事を追加しました。
自分の写真をアップするのは初めてですが、実物以上に良く撮って頂いたのが嬉しくて。るき乃さん、ありがとう。
ドッペルゲンガーに関する応答については、ツイッターでは書いたのですが、てっきり映画サークル関係の人だと思ったので、お礼を言う機会を逸しました。感謝しています。
なお、津原さんの「瑠璃玉の耳輪」はネットで連載していたものを単行本化したものですね。

  • kuninori55
  • 2010/12/03 4:15 AM

『こほろぎ嬢』の原作が大正末・昭和初期の作家ということで尾崎翠について、観客として日本文学関係の方に観に来て頂く様にしたかったんだが、いかんせん当方普段そういった方たちとのおつきあいが無い。
どうやったらいいか見当がつかず、たまにあたってみた関係先も、突然で、とまどうらしく、結局目途がたたなかった。
結果、迎えた当日、トークの席で山崎さんが、会場に問いかけた軽い尋ねの問いかけに気軽い調子で即刻返事が返ってきたのが自分的にはすごく嬉しかった。エドガー・アラン・ポーの短編小説に関する質問、並びに関連した言葉”ドッペルゲンガー”という言葉に関連するやりとりがステージと観客席の間たった5メートルくらいの距離にてやり取りされた訳なんです。
こういったところを指して山崎さんが”親密な雰囲気”と呼んでくださったんだろう。
ありがたい情景でした。

  • 春声@
  • 2010/12/02 11:17 PM

11/23の2日後、11/25(土)の毎日新聞夕刊(おそらく全国版)に尾崎翠関係の記事が出ました。
若い作家で津原泰水さんんという人がいて、尾崎翠が1927年に映画の脚本として書いた「瑠璃王の耳輪」という作品を津原氏が長編小説として書き直し、よみがえらせたという記事です。
興味があるかと思われますので送っておきます。

  • 春声@
  • 2010/12/02 2:43 PM

春声さま
『こほろぎ嬢』通信、25号まで発行ですか。失礼しました。空港に迎えに来てくれた藤野さんが17号を持っていたような気がしたので、つい17号と書いてしまったのですが、先ほど直しました。

  • kuninori55
  • 2010/12/02 1:16 PM

”超人的な努力”、”観客を増やそうとする努力ではない。尾崎翠や『こほろぎ嬢』に対する理解を広めようとする努力だ。”などなどの山崎さんの文章は読んで下さる方々に対していささか「面映いような気がする」んですけど−−
折角ですので山崎さんの表現のままにてお読み頂きます。
「こほろぎ嬢通信」はVol.25」に到達しました。企画が実現し終了した後、最終号を出すことを予定中です。ありがとうございました。

  • 春声@
  • 2010/12/02 1:07 PM

山崎様 流石水際立ったアップです。こういうざっくばらんで、それでいて要所要所つぼを押さえた文章と写真はほんと練達の文と技だと感心致します。写真についても問題なきようコピペの上一・二人のみ知らせをして了解をとっておきます。どうもお疲れ様でした。

  • 春声@
  • 2010/12/01 12:55 PM









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